18日の夜、NHKテレビでトヨタのプラグインハイブリット車の開発状況についてドキュメント番組が放送されていた。

 プラグインとは家庭用電源から直接充電できるバッテリーを持つことであり、将来的な電気自動車の基本となるものである。今回のプラグインハイブリット車とは、家庭用電源から充電も出来るバッテリーを搭載しながら、ガソリンエンジンも持つ車のことである。

 トヨタは、現在のハイブリット車から電気自動車への移行過程として、プラグインハイブリット車を年内に発売する予定とのことらしい。

 電気自動車を開発して既に発売開始している三菱自動車や来年度内にも発売開始予定の日産自動車がある。トヨタはとりあえず事実上の電気自動車としてプラグインハイブリット車をここにぶつける予定である。

 電気自動車は、昔からSF映画や漫画には出てきていたが、いよいよ現実の物となってきた。数年前まで1台当たり数千万円から数億円と言われていた価格も、500万円を切るところまでやってきた。それはまさに電池(バッテリー)とモーターの軽量化と大容量化とコスト削減のたまものである。


 いままでの自動車産業は、エンジン開発がそのメーカーの生命線であったことは言うまでもない。いかにパワフルに、いかに静かに滑らかに、いかにコンパクトに、いかに低燃費に、いかに安価になどを競争してきた。(※当然ながらボディ剛性や衝突時の安全性やブレーキ性能や快適装備に関しても各社激しい競争をしていることは言うまでもないが、ここでは特徴的なアイテムとしてエンジン開発を自動車メーカーの生命線とした。)

 それがどうだろう、電気自動車になるとモーターと電池が主要な基幹部品となる。まさに電機メーカーの世界である。いままでの大手自動車メーカーは、デザインをして各部品をいろんなメーカーから仕入れて組み立てるだけの工場となる恐れがあるのである。逆に言えば、様々な会社が自動車メーカーになり得る可能性が出てくるのである。

 トヨタは、将来的に単なる組み立て会社にならないよう、電池やモーターに関しても独自開発に向けて投資を行うようであるが・・・。



 さて、その辺りを考えながら、農業に目を向けてみる。


 現時点では採算性や技術的な問題も含めて夢物語と個人的に考えている「野菜工場」というものがある。農林水産省も進めている「工場で植物をつくる」という構想である。政府はここに補助金を出してでも普及させようとしている。自給率アップのためか、環境問題への配慮なのか、どちらにしろ将来的な新しい農業へ向けての投資である。

 前にも書いたが、現時点での野菜工場が成立するかどうかについては、個人的な意見は”ノー”である。しかし、環境が農産物に与える悪影響、逆に農業が環境に与える悪影響を考えると、いつの日か野菜工場もあるのかな、と現実的に少し考えてしまうようになってきた。

 数千万円だった電気自動車が数百万円に、さらに普及すれば今後は数十万円まで下がってくるだろう。去年の秋からのリーマンショックによる原油高を引き金に、トヨタとホンダのハイブリット車が脚光を浴びた。政府の景気刺激策としての環境対応車に対する補助制度も相まって、トヨタのプリウスは半年以上の納車待ちだという。その勢いにのって世界的にも自動車メーカーは電気自動車の発売競争に躍起である。

 そんなちょっとした契機があれば、ひょっとしたら野菜工場も一気に広がる可能性があるのでは、、、と思ってしまうのである。

 大手商社やプラントメーカーや建設会社なども、農業そのものに参入しないまでも、野菜工場建設のハードとソフトの開発を進めているところも多くあるはずだ。
 1施設で数億円から数十億円かかると思われる野菜工場であるが、研究開発と実績が増えていけば、コストダウンのノウハウの蓄積と大量生産のスケールメリットが表れ、これが10分の1くらいになる可能性はある。
 また野菜の品目によっては工場栽培では、巻かなかったり熟れなかったり大きくならなかったりするものが多くあるが、種苗メーカーや肥料メーカーなどの研究次第では、それも克服されるのも遠くないだろう。

 露地栽培で1反(=約300坪)当たり売上が20万円〜40万円の年間2回転で使用されている畑に10階建てのビルを建てて、各フロアで野菜を栽培して、年間6回転くらいの出荷を実現することは可能かもしれない。天候の影響も受けないし、害虫の影響も受けない。栽培はオートメーション化され、人件費は大幅に減少するだろう。水道は雨水をためて使用し、電力は屋上に設置された太陽光発電や風力発電を利用する。

 何度でもいうが、現時点では採算無視の夢物語だ。しかし、いつの日か、何かを契機に状況が一転することがあるかもしれないと思い始めたのである。

 だから、"もし"の話である、もしそうなった時、いまの農家はどうなるのか、何をするのか。もちろん全てが野菜工場に置き換わることはないにしろ、大規模に農業経営を行っている農業生産法人などがその経営方針について大きく影響を受けることになるだろう。
 トヨタなどの自動車メーカーがそのノウハウを蓄積した技術の結晶である"エンジン"を手放さなくてはいけなくなるのと同じことが農業にも起こるのかもしれないのである。

 大きくて速くてかっこいい高級車やスポーツカーがモテハヤされて来たバブル以来の自動車事情。それが去年の秋以降のこのエコブームである。燃費が悪い自動車に乗るのはカッコ悪いことで、社会的な罪である的なイメージが出来つつある。反対に、小さくてもエコであり経済的であるハイブリット車に乗っている人はカッコ良かったり、社会的善人であるという雰囲気がある。

 農産物だって、いまは自然の中で農薬や化学肥料をなるべく使用せずに栽培されたものが良いものだという消費者ニーズが出来てきているが、今後はどう変わるかわからない。ちょっとした事件や事故が契機になって、「野菜は工場の中で作られるのもが安全で安心なんだ」という消費者ニーズが社会現象として動き始めると、一気に野菜工場は普及するかもしれないのである。

 「野菜工場なんて、バカな!」なんて知らんぷりばかりはしていられないような気がしてきたのである。農家としてのノウハウの蓄積と技術の結晶が奪い取られるかもしれないのである。


 その時農家は何をしたら良いのだろうか。今から考えておいた方が良いかもしれない。NHKの番組を観ながら、そんな事を考えたのであった。